西野亮廣を科学する③「手伝って」その魔法の言葉が動かす力を大きくする。
キングコングの西野亮廣さんのやり方をマーケティング及び様々な学問的視点から科学してみたいと思います。
今回は、心理学で言われるところの「認知的不協和」から科学します。
恋愛に例えてお話します。
かつてこちらの記事で「男も女も受け身だから、恋愛なんてうまくいくはずがない」なんてことを言いましたが…では、どう能動的なアクションをすればよいのでしょうか?
認知的不協和(cognitive dissonance)とは、1957年にアメリカの社会心理学者レオン・フェスティンガー氏によって提唱されました。
人は、自分の中で矛盾する2つの事柄(認知)を同時に抱えると、不快になります。すると、その不快感を解消するために、以下のどちらかの行動を選択します。
①「今までの事柄を肯定するために、新しい事柄を否定する」
②「新しい事柄を受け入れるために、今までの事柄を否定する」
たとえば、ダイエットしている最中に友達が、なかなか手に入らないと噂の美味しいケーキを差し入れてくれたとしましょう。今まで順調にきているダイエットは続けたい、しかし、目の前の希少価値の高いこのケーキも食べたい。これが矛盾による不快感です。
①の場合は、ダイエットしている自分を肯定するために、「このケーキはまずいから食べない」と考えることです。よく「すっぱいブドウ」といわれるものです。
すっぱいブドウとは、イソップ寓話の一つです。
キツネが、たわわに実ったおいしそうなぶどうを見つける。食べようとして跳び上がるが、ぶどうはみな高い所にあり、届かない。何度跳んでも届かず、キツネは怒りと悔しさで、「どうせこんなぶどうは、すっぱくてまずいだろう。誰が食べてやるものか。」と捨て台詞を残して去る。(Wikiより引用)
②の場合は、今ここでこのケーキを食べないと一生食べられないと考え、ダイエットは今日だけ中止して、このケーキを食べてしまうという行動です。「今日だけ。明日からちゃんとやるわ」という言いわけ、よく使うと思います。
このように、人間とは、2つの矛盾を認知した時には、矛盾差のギャップを埋めるために、事実が変えられない場合は自分の思考を変えることで解消しようとします。つまり、行動に合わせて無意識に自分のそもそもの考え方を書き変えてしまうわけです。
これは、恋愛においても活用できます。
あなたが誰かを好きになったとしましょう。好きだから、なんとかしてその人の役に立ちたいと考えて、その人のことを手伝ったりしたくなったりしませんか?もしくは、手伝うことで自分をアピールして振り向かせようとしたりしてないでしょうか?
これではなんの効果も得られません。
なぜなら、その相手の心の中に何の矛盾も生じないからです。むしろ逆で、手伝うのではなく「手伝って」と依頼する方がいいんです。しかも割と手間暇かかるようなことを頼むんです。
そうすると、相手の心の中にこんな変化が生まれます。
「こんなに大変なことを手伝っている」→「嫌いな人を手伝うわけがない」→「あれ?この人のこと好きなのかもしれない」
そんなバカな!と思いますか?
でもそれが人間の心理だし、脳の働きなんです。
能動的にアプローチするということは、決して自分が相手のために何か行動するということではないんです。むしろ、相手に能動的に行動を起こさせるように仕向けることこそが「最大の能動的アクション」なんです。
こんなこと、実は、心理学も何も勉強していなくても、もともとモテる女子は古来より使っていたんですよね。気になる男子にわざと無理難題をふっかけて手伝わせるってこと。学校でも仕事でも。
この認知的不協和を実に上手に西野さんはマーケティングに取り入れているんです。
こちらのブログをお読みいただければわかりますが、彼は自身のオンラインサロンのメンバーにお金を払ってもらった上で働いてもらっています。本来労働には対価を支払うべきなのに、逆です。
これこそが究極の認知的不協和なんですが、だからこそ、参加者は「お金を払っているんだから楽しくないわけが無い」→「楽しいに決まっている」という内面の感情を書き変えてしまいます。無意識に!
しかし、これは誰でもマネしてうまくいく方法とは限りません。西野さんはあえて「働かせる」という言葉を使っていますが、実はお客さんの能動的アクションをすべてエンタテインメントに昇華しているわけです。だからこそ成功しているし、だからこそお客さんは進んで参加し、楽しんでいるんです。
以前、僕は西野さんというのは、お客さん自身の行動を喚起して、なおかつ「達成感の連鎖」というエモ消費(幸せ感)を提供していると書きました。
消費と言ってますが、何も「金を払ってモノ・コトを買う」ことだけが消費ではありません。「時間を使うこと」も消費ですし、言ってしまえば、人生とは、時間と金を使って幸せな感情を得る「大いなる消費行動」なんだと思います。それこそが僕の定義する「エモ消費」です。
ちなみに、この認知的不協和は通常のマーケティングにおいても活用されています。例えば、書籍のタイトルに「偏差値40でも東大に受かった」とか「ブサイクでも結婚できた」とか、そういう矛盾する内容を併存させるものがあると思います。これも不協和によって興味を喚起する手法です。
ですが、そういった表層的なことではなく、小手先のテクニック論でもなく、本質的に「どうすればお互いが能動的に楽しくなれるのか」を実現している点で、西野さんの手法の方が数倍上でしょう。まさに彼自身が言っている「おもしろい経済」です。
企業のマーケティング担当者は、「何を売る」「どう売る」以前に「なんのために売る」のかという部分、そこをもう一度見つめ直すきっかけとされるといいと思います。